書けたよ!

スコール&ラグナ+リノアっぽいものを書いてみた。
10月のブログに書いている途中です、と言っていたアレです。
甘くならずに終わったよ。
興味のある方のみどうぞ。
そのうちにサイトに移行するかも知れませんが、しばらくはここに置いておきます。









「一言だけだよ。たった一言。なんでそれが言えないの?」
リノアが俺の目を真っ直ぐに見据えてそう言うんだが…、俺自身は態々そんな一言を言う必要性を感じてはいない。けれどそれを口にしてしまったら、
「私は、必要だと思う。言われて嬉しいと思わない筈がないもん」
と憮然とした表情で言い返された。
折角久しぶりに俺の時間が空いてこうしてふたりで自室でゆっくりと会えたというのに、何故こんな不毛な言い合いをしなくてはいけないのか。
本来ならば、今頃甘いセリフのひとつやふたつリノアに囁いていても可笑しくはない筈なのに。
甘いムードとは全く無縁の今の状況をどうしたら打破出来るのか。
宥めたりすかしたり、俺なりに色々と手は打ってみたものの、どれも不発に終わった。
こちらの努力が相手に伝わっていないのをひしひしと感じる。ひとつ溜息を付くついでに、
「…わけが分からん」
つい呟いてしまったら、彼女は目尻を釣り上げてみせた。
「わけが分からんのは私の方よ!」
言いながらくるりと俺に背を向けて部屋を出て行こうとする。
「おい、待てよ」
すでに歩き出していた彼女の腕をかろうじて掴んで引き留めるが、リノアは俺の手さえも振り解いた。
「今日は私、もう帰るから」
…そんなこと言うなよ。
俺がどんなに今日を楽しみにしていたか、知らないだろ?。
俺はリノアの他愛もない日常の話を聞くのが嫌いじゃない。だから今まで俺の仕事の所為で会えなかった分も沢山の話を聞いてやろうと思っていたし。
リノアに触れるのをどんなに待ち望んでいたことか。
寂しいのはリノアだけじゃない。
そう思うのなら今の思いの丈をさらりと口に出してしまえばいいものを、それが出来ない俺自身にも問題があるのは重々承知だが。
言葉に出来ないのなら態度で示せばいい。
強引に抱き寄せてしまえば大人しくしてくれるんじゃないかと試みたが、その作戦は失敗に終わった。
「やだっ。スコールなんてもう知らない」
と叫んだと同時に腕の中からすり抜けられて、今度こそ彼女は部屋のドアを乱暴に開けた。
ドアが開いたその瞬間だ。間の悪いことにあいつが顔を出した。
「あれ?リノアちゃん来てたの?」
性格こそ正反対と言っても過言ではないが、どうかすると俺とそっくりの表情をすると評判のこの男。…認めたくはないが俺の父親だ。
「何、もう帰っちゃうの?もっとゆっくりして行けば」
…ここはあんたの部屋かよ。
「いえ、もう帰ります。分からず屋のスコールと一緒にいたくありませんから」
…そっちも相当な分からず屋だと思うがな?
相変わらずこのふたりの発言は突っ込みどころが多い。
「何よ?痴話喧嘩?」
にやり、と笑みを浮かべながらのセリフはリノアに告げられたものではない。明らかに俺に対して言っている。
部屋主に断わりも入れず当然のことのように部屋に入って来るあたりが気に入らなかったが、今はそれどころじやない。
「リノア、待てって言ってるだろ」
リノアに視線を送れば、
「私が望む言葉を、ちゃんと言って?」
それだけを俺に告げると、彼女は開けた時以上の乱暴さでもってドアを閉めた。
ばたん、と閉められたドアの音が部屋中に響いた後の一瞬の静けさ。この部屋に残ったのは俺と、俺の父親―――ラグナだけだということを嫌でも思い知らされる。
「君が好きだ、とかか?それとも、愛してる、とか?」
突然に声を掛けられたから、俺は思い切り不機嫌な表情でラグナを見遣った。
「…何の話しだ」
何を問われているのかは分かっていたが、あえて分からないふりを通した。
「だからぁ。リノアちゃんがおまえに望む言葉。たまには甘い言葉のひとつやふたつ言ってやれや。減るもんじゃねぇし」
「言ってる。ふたりきりの時は、それなりに」
「ほー」
そりゃ意外だね。どんな顔して言ってるんだか。
言われなくても分かる。そう顔に書いてある。
「なら、言い足りないんじゃないのか?もう少し女心ってやつを勉強した方が」
「そういうことを言って欲しいと言ってるんじゃないんだ、リノアは」
声音に故意に若干の苛立ちを含ませて言ってやったとしても、それに気付いて空気を読んだ発言をする、なんて殊勝な気持ちは持ち合わせているはずもなく、
「じゃあ一体なんて言えって言ってるわけ?」
案の定しつこく聞いて来る。
ここで普段の俺なら間違いなく、あんたには関係ないだろう、と無碍に言い返して終わるのだろうが、今回はそうも行かない事情があった。
部屋から出て行ってしまったリノアを追いかけるべきであろうこの状況下において、リノアが俺に望む一言を聞くまではここから出て行かないぞと言わんばかりのラグナの態度。
ドアの前を陣取って仁王立ちだ。
俺はとうとう折れた。
ひとつ深呼吸を施す。
そして俺は故意に相手に聞こえるか聞こえないかのような小声で呟いた。
「――父さんと呼べと、言われたんだ」
「…あ?」
「だから、あんたのことを!世間一般の息子が呼んでいるように、普通に呼べと」
まさかそんな答えが返って来るとは思わなかったであろうラグナの表情が固まっている。
「…ええ…っと、…それは」
普段饒舌なこの男が珍しく口ごもっている。
想像している以上に困惑している表情を見ているのは結構面白かったが、俺の方も決して口にはしたくなかったことを口にしてしまったせいでいささか混乱状態でそれを冷静に観察しているような余裕はなかった。
こちらもようやく冷静さを取り戻した頃、しばらく動きを止めていたラグナが動き出したと思ったら、
「あの…さ。今の、もう一回言ってくんない?」
と、多少は気恥ずかしいのかうつむき加減でとんでもないことを要求してくる。
冗談じゃない。
さっきの一言を呟くのに俺がどれだけ勇気を振り絞ったと思ってる。
「二度はない」
「そんなこと言わずにさ。声が小さくて良く聞こえなかったし」
嘘付け。ちゃんと聞こえてたから固まったんだろうが。
「俺は質問に答えたんだから、もう帰ってくれ」
投げやりに言いながらラグナの肩を押し、ドアを開け放ち外へと押し出した。
頼むからもう一度、と懇願し続けていたが、それはきれいさっぱりと無視してやった。
ドアを閉めた瞬間に一人になった部屋の中は途端に静寂が保たれる。
強引に押し出してしまったが、あの男はここへ何をしに来たのか。
立場的にも尋常ではない忙しさの中に置かれている筈のラグナは、こうして度々俺の部屋を訪れる。それは、今まで離れていた親子の時間を取り戻そうとでもしているかのような頻繁さだ。





――父さん…か。




リノアにせっつかれでもしなければきっと永遠に出て来ることはなかったであろうその言葉を思い出して、苦笑する。
初めて口から発せられたそれは、なんとも言えない気恥ずかしさと、わずかな甘さを含んで、俺の脳裏に焼き付いた。