図書館戦争 手柴&堂郁 小ネタ

手柴&堂郁、図書館戦争小ネタ投下。色々設定ねつ造してます。今回は柴崎のモノローグ。



今、図書館内清掃中。普段は清掃業者に頼んでいるんだけど、半年に一度は全職員で担当を割り振って清掃してるのね。で、本を下ろして棚を拭こうとしてるわけ。上の方の本を下ろしたいんだけど、なかなか手が届かない。脚立の数が少ないのがいけない。全館掃除しようとしてるんだからもっと事前に用意しておきなさいって。
こういう時に背の高い恋人がいるってお得感ありだな、って思うのよね。
あたしがどんなに頑張って背伸びしても届かない、本棚の上の方にある本を、
「ほら」
って、軽々と取ってくれちゃうあたりが頼もしい。それもあたしが頼む前に気付いてさりげなく背後に来て取ってくれるところがポイント高い。

「ありがとう」

わざと極上の笑顔を乗せて言ってやったのに、ろくに視線を合わせることなく、
「いや」
と一言だけ言って去ろうとするんだから。
ま、手塚らしいと言えば手塚らしいかな。

「ちょっと待って」

踵を返して一歩を踏み出そうとしていた手塚の服の袖を掴んで引き止める。
振り返った手塚と、ようやく視線を合わせることが出来た。

「明日、空いてる?」
「なんで」
なんでっ…って、あんたねぇ。
「彼女が明日空いてるかって聞いてるのよ?デートの誘い以外に何があるのよ」
「なんでわざわざそんなことを聞くのか分からんから聞いた」
「はぁ?」
「明日はふたりとも公休日だって、前に言ってただろ。だからちゃんと空けてある」

…へぇ。
私が随分前にぽろっと言った一言を覚えていてくれて、なおかつ予定入れないでいてくれたんだ。
素っ気なく見せていても押さえるところは押さえてくれてるってことね。さすが手塚。
じゃあ何処へ行こうか?と尋ねようとしたら、手塚の視線がふっとあたしから離れていったのに気付かされた。
何処を見ているのかと目で追うと視線の先には、あたしと同じように本棚の上にある本に手が届かず背伸びしている人がいる。ここから遠い場所だったから良く分からなかったけど、良く見てみれば、その人は堂上教官。
手塚もそれが誰だか気付いたみたいで、今にも駆け寄ろうとしている手塚の袖を私はもう一度掴み直した。

「手塚は行く必要ないわよ」

あたしの視界の端に、良く見知った人物が堂上教官へと向かって行く姿が映り込んだ。だから手塚を引き止めたわけだけど、彼は少し不満そう。堂上ファンクラブなんてものがあったらまず真っ先に入会しそうなほどの堂上教官ファンだもんね。
駆け寄ったのは私の親友。堂上郁。あたしはいまだに笠原って呼んでるけど。
ふたりがどんな会話を交わすのか、興味津々だったあたし達は、しばしの間ふたりを観察することに専念した。

「きょーかん!そんなに無理して背伸びしなくとも!あたしが取りますから!」
「無理してるとか言うな。このくらいなら俺でも取れる」
「いや!あたしの方が簡単に取れますから。そこどいてください」
「取れると言っているだろうが」
「何意地張ってるんですか。あたしに任せてください」
「いいから、郁は持ち場に戻れ」
「こんなふうに言い合ってる間に取れちゃいますって。はい、どいて、篤さん」
「このあたりは俺の担当だからいいんだ。郁には郁の担当があるだろ」
「篤さん、だって…、」

―――ここで役に立たないと、なかなか篤さんの役に立てない。…だから、取らせて…?

堂上教官の動きが止まった。
笠原が教官になってからというもの、堂上教官がさりげなく後方支援したりフォロー入れたりしてるものね。
笠原にとっては、高い位置にある本棚の本を取るというようなほんの些細なことでも、堂上教官の役に立てるならこんなに嬉しいことはないんだろうな。いつも笠原が助けてもらってるから、たまにはお返ししたいのね。可愛いとこあるじゃない。

「…分かった。よろしく頼む」

んー。ちゃんと郁の気持ちを汲み取って折れるあたり、さすがは堂上教官、大人だわ。

「ありがとう、篤さん」
「礼を言うのはこっちだろうが」

背の高い笠原にとっても本の置かれた場所は手の届きにくい場所だったみたい。背伸びをして見せてから本を手にするとそれを堂上教官に渡した。そんなふたりの様子を見守りながら、あたしは小さく息を吐き出した。

ナチュラルに名前呼びだったわね」
「ああ。一瞬ここが図書館内だったのを忘れたな」
「あたしも名前で呼んでみようかな…――光さんって」
「…」

おや。こちらも動きが止まったわ。
もしかしたら、照れてる?

「あたしのことも名前で呼んでくれないかな?ねぇ、光さん」

畳み掛けるように言ってやったら、しばらく間があった後で、

「…下の名前、何だったか忘れた」

なんて言うの。まったく、良く言うわね。
いまだに名字呼びで名前を呼び合うことが出来ないんだから、あたし達の仲もまだまだね。
持ち場に戻る、と言いながら歩き出した手塚の広い背中を見送りながら、何時の日か、堂上教官と笠原を超える仲良しになってやる、とその時あたしは決意したの。



お粗末さまです!
最後までお読みいただきありがとうございました。
背の高いうちの兄弟が、
「学校で掃除の度に、高いところ拭いてって頼まれるんだよね。結構大変だからちょっと嫌」
と愚痴っていたのを思い出して浮かんだのがこの小ネタでした。
拍手、ぱちぱちといただいてます。本当にありがたいことです。更新の糧とさせていただきますね。本当にありがとうございました!